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TCFD提言に沿った取り組み

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「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に沿った取り組み

当社は2022年10月にTCFDの提言に賛同しました。
TCFDの提言を踏まえた取組みは、カーボンニュートラル実現に向けて有効であると共に、リスクと機会の発掘・対応による収益への寄与、ステークホルダーへの情報開示と対話の充実など、多岐に亘る効果が期待できる手法と確信しており、全社挙げての展開を推進してまいります。

TCFD

ガバナンス

気候変動・環境関連課題の管理・監督体制

当社は持続可能な成長と社会的課題の解決に向けたサステナビリティ経営の取組みの推進と中長期的な企業価値向上のため、サステナビリティ委員会を設置のうえ、年4回以上開催しています。特に、気候変動問題は国際的課題として重要視しており、2030長期ビジョンの第一義として「カーボンニュートラルに向けて尽力する企業」を掲げ、その他環境関連課題と共に、当委員会において管理・監督する体制を構築しています。
また、その下部組織であるカーボンニュートラル推進委員会、環境マネジメント委員会がカーボンニュートラル実現に向けての方針設定、リスク・機会の特定を行い、その後、業務執行部門が検討、報告(年1回)するCO2排出量削減に向けての具体的な活動、環境目的・目標の設定などに対し、環境マネジメント委員会が承認・指示を行っています。両委員会は年3〜4回の定期開催に加え、外部環境やモニター状況の変化など必要となった場合は臨時開催する等、臨機応変に対応しています。
これらの内容はそれぞれの委員会より適宜、サステナビリティ委員会に諮問のうえ、取締役会にて協議、最終承認・指示(年1回以上)されています。また、CGコード、有価証券報告書に開示すると共に、CSR報告書にも反映しており、ホームページなどにも掲載することで、ステークホルダーへの情報共有にも努めています。

サステナビリティ経営の全体像―気候変動に関するガバナンス体制―
サステナビリティ経営の全体像―気候変動に関するガバナンス体制―

気候変動・環境関連課題を評価・管理する上での経営者の役割

当社の気候変動など環境関連問題への対応に中心的な役割を担うサステナビリティ委員会は取締役社長を委員長とし、カーボンニュートラル推進委員会および環境マネジメント委員会では製造、環境部門などを統括する取締役が推進責任者となり、気候関連、環境に関する課題の抽出と対策立案、モニタリングと確実な履行を評価・管理しています。

リスク管理:気候変動・環境関連リスクを識別・評価するプロセス

気候変動および環境関連におけるリスクは、当社の事業経営、サステナビリティ経営に影響を及ぼすとの認識のもと、年3回の定期更新を行っており、そのマネジメントにあたっては以下のとおり、PDCAサイクルを活用しています。
計画段階(Plan)では、カーボンニュートラル推進委員、EMS管理責任者が国際情勢、国内における社会情勢、政府・自治体の動向、鉄鋼業界・他産業界の動向など様々な情報を参照のうえ、気候変動・環境関連に関するリスクを抽出しています。そのリスクを財務影響度、発生可能性、ステークホルダーにとっての重要性などを加味した上でカーボンニュートラル推進委員会、環境マネジメント委員会が特定・評価しています。
実行段階(Do)では、業務執行部門が前述の特定されたリスクを踏まえ、エネルギー原単位改善の目標と施策、および省エネ・CO2削減の設備投資計画を検討のうえ、経営計画・アクションプランに反映し、実行しています。
実績評価段階(Check)では、環境マネジメント委員会がアクションプラン実績のモニタリング、フォローと共にその達成度のレビュー、環境パフォマンスの総合評価を実施しています。これらの結果については、環境マネジメントシステム(EMS)における外部機関、社内環境監査委員からの監査を受けることで評価すると共にステークホルダーとのコミュニケーション(開示文書など含む)の中で明示しています。
歯止め(Action)として、レビューおよびパフォーマンス評価の結果を踏まえた改善策を検討のうえ次期計画に反映しています。
これら一連の業務については、環境マネジメント委員会がサステナビリティ委員会、取締役会で報告(年1回)し、承認・指示を受けています。

気候変動・環境関連リスクマネジメント体制
気候変動・環境関連リスクマネジメント体制
リスクを特定・評価するプロセス
リスクを特定・評価するプロセス

戦略

当社は中・長期的な気候変動課題への対応を全社の取り組み課題として経営層を含む全従業員がその内容を認識・共有化のうえ取り組むべく、戦略的な課題抽出手法であるシナリオ分析を活用しました。

シナリオ群の定義

シナリオの選択にあたっては、可能な限り温度帯や世界観が異なるシナリオを選択することで「想定外を無くす」ことを意識し、パリ協定で示されている「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」ことを念頭に置きました。
その上で、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数のシナリオ(1.5℃〜2℃未満、および4℃)を参照のうえ、2030年、2050年時点における影響評価を行いました。

参照情報
  • IEA 「World Energy Outlook 2022 NZE,APS,STEPS」 「Energy Technology Perspectives 2020 SDS・IPCC : RCP2.6 , RCP8.5」
IPCC AR6 WR1 
「短中長期における20年間の世界気温変化」
シナリオ 短 期
(2021~2040年)
中 期
(2041~2060年)
長 期
(2081~2100年)
シナリオの概要 当社の
選択
優良
推定値
(℃)
可能性が
非常に
高い範囲
(℃)
優良
推定値
(℃)
可能性が
非常に
高い範囲(℃)
優良
推定値
(℃)
可能性が
非常に
高い範囲(℃)
SSP1-1.9

1.5

1.2-1.7

1.6

1.2-2.0

1.4

1.0-1.8

  • 持続可能な発展下で、工業化前を基準とする21世紀末までの昇温(中央値)を概ね(僅かに超えることはあるものの)約1.5℃以下に抑える気候政策を導入。
  • 21世紀半ばにCO2排出正味ゼロの見込み。

SSP1-2.6

1.5

1.2-1.8

1.7

1.3-2.2

1.8

1.3-2.4

  • 持続可能な発展下で、工業化前を基準とする昇温(中央値)を2℃未満に抑える気候政策を導入。21世紀後半にCO2排出正味ゼロの見込み。
SSP2-4.5

1.5

1.2-1.8

2

1.6-2.5

2.7

2.1-3.5

  • 中道的発展の下で気候政策を導入。2030年までの各国の「自国決定貢献(NDC)」を集計した排出量の上限にほぼ位置する。工業化前を基準とする21世紀末までの昇温は約2.7℃(最良推定値)。

SSP3-7.0

1.5

1.2-1.8

2.1

1.7-2.6

3.6

2.8-4.6

  • 地域対立的な発展下で気候政策を導入しない中~高位参照シナリオでエーロゾルなどCO2以外の排出が多い。

SSP5-8.5

1.6

1.2-1.9

2.4

1.9-3.0

4.4

3.3-5.7

  • 化石燃料依存型の発展下で気候政策を導入しない高位参照シナリオ

当社グループにおける事業環境の変化

シナリオで設定した気候変動が当社の事業環境に与える影響をマクロ的観点から描写した上でリスクと機会を細分化しました。

1.5℃〜2℃未満シナリオ
脱炭素化ニーズが高まり、産・官・学・金・民による抜本的な対策が講じられる
1.5℃〜2℃未満シナリオ
4℃シナリオ
脱炭素化ニーズはなく、異常気象など物理的リスクによる激甚災害が頻発する
4℃シナリオ

シナリオ分析結果 ~ リスクと機会への対策

当社中・長期的な気候変動への対応を全社の取組み課題として、経営層を含む全従業員がその内容を認識・共有化のうえ取り組むべく、TCFD提言において推奨されるシナリオ分析を活用しました。
当社、およびバリューチェーンにおける気候関連リスクと機会を認識のうえ、シナリオとして選択した「15℃〜2℃未満、および4℃」の2パターンに当て嵌め、事業上の短期・中期・長期的な課題を検討しています。
以下に特に重要度の高い内容について、下記のとおり推進してまいります。

  • リスクへの対応
    • 炭素税、排出量取引などのカーボンプライシング導入に伴うコスト負担増加への対応、および脱炭素社会に向けての他産業における高炉製品に代わる新素材・新技術の開発による鋼材需要の減少への対応
      財務影響

      炭素税が2030年に$140、2050年に$250で導入され、対策を講じなかった場合、両年におけるCO2排出量を325千tと想定すると、そのコスト負担額はそれぞれ58億円、105億円になります(足元での地球温暖化対策税289円/t-CO2との差額にて算定、炭素税はIEA WEO2022 NZE参照)。
      また、他産業で高炉鋼材に代わる新素材・新技術の開発があった場合、当社の購入高炉鉄源を使用している製品(現状、全体の約5割)の販売数量が減少し、売上高、収益が減少する可能性があります。

      対策

      CO2削減に向け、現在購入している高炉鉄源を電気炉鉄源に置き換えるべく電気炉設備の生産能力増強のため、新電気炉建設を含めた検討を推進しています。その実現に向けては、持続的な安定収益の確保の実現、スクラップ調達確保策の検討などを推進してまいります。また、既設工場設備では省エネルギーを推進し、加えて太陽光発電設備の導入検討など再エネ化も併行して対応しています。

    • サプライチェーンにおける脱炭素化への対応によるコスト増加分の原材料価格への転嫁に伴うコスト負担増加への対応
      財務影響

      ①項同様、炭素税導入で調達先(高炉メーカー、電気炉メーカー)で対策が講じられなかった場合、購入鉄源の価格上昇により、コスト負担額が2030年で105億円、2050年で188億円の増加になるものと想定されます(前提条件は①項同様)。

      対策

      省エネなど自社によるコスト削減とサプライチェーンへの省エネの働きかけと共に、サプライヤーとのエンゲージメントを継続的に実施のうえ、原材料価格変動に臨機応変に対応すべく、連携を強化します。長期的には新燃料の利用拡大、船舶の燃料転換などを推進してまいります。

    • 気候変動関連対応ニーズへの対応不足による企業評価低下がもたらす株価の下落への対応
      対策

      TCFDに沿った開示を進めると共に、株主様、機関投資家様などとのコミュニケーションを充実してまいります。

    • 平均気温の上昇や海面上昇に伴う事業環境の変化への対応
      財務影響

      4℃シナリオにおける本社・船町工場での浸水は50cm〜1m、営業停止日数13.5日と想定(WRI Aqueduct、および国交省2019.4策定「治水経済調査マニュアル」参照)され、その場合の売上高減少額は最大約62億円となります。

      対策

      自社における既存操業の維持が困難となり、拠点の移転、設備対応、物流ルート変更に対するコストの増加が想定される場合、およびサプライチェーンにおいて供給体制が不安定となることを想定した場合への対応として、原材料調達先の多様化、およびBCP(事業継続計画)の実行によるスムーズな復旧を推進します。また、体制固めとして、BCM(事業継続マネジメント)体制を構築することで、鋼材販売遅延の極小化を推進すべく、設備・施設強化、鉄鋼メーカーとの業務連携による融通制度構築などを進めてまいります。

  • 機会への対応
    • 脱炭素意識の高まりに伴う消費者意識の変化への対応
      財務影響

      建築業界、建設業界など、当社主要販売先である多彩な職種の・多くの企業から引き合いが増えるものと想定した場合、約24億円の売上げの増加が期待できます。

      対策

      CO2排出量の低い鋼材ニーズの高まりに伴う電気炉製品販売量の増加への対応として、①項記載の電気炉生産能力向上対策の実施に加え、販売戦略として脱炭素・循環型鋼材であることのPRなどを行ってまいります。

気候変動関連のリスクと機会、およびその対策
気候変動関連のリスクと機会、およびその対策

指標と目標

バリューチェーン全体におけるCO₂排出量削減実績と目標

当社では、2050年カーボンニュートラルに向けてバリューチェーン全体での排出量削減が重要であると認識しており、また、自社における直接・間接排出量(Scope1,2)よりもサプライチェーンの排出量(Scope3)が多いことから、Scope3を含めた2030年目標値※1として2013年比46%削減、2050年カーボンニュートラルを掲げています。
当社におけるScope1,2,3排出量は2022年実績で1,298千t-CO2となり、その内、自社の活動からの排出量(Scope1,2)は251千t-CO2で全体の2割弱となっています。

  1. 当社における温室効果ガスは、CO2がほぼ全量であり、その他のガスは極めて少量であることからCO2に絞り算定しました。
  2. CO2排出量は当社の鉄鋼事業、建材事業の全工場、エンジニアリング事業におけるScope1, 2とScope3を示し、グループ会社分は現在算定中で、来年度に開示する予定です。
  3. CO2排出量算定にあたり電力会社からの供給電力は調整後係数を適用、排出原単位は「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベースver.3.2」を適用しました。
CO2排出量(Scope1,2,3)の推移(千t-CO2/年)
CO2排出量(Scope1,2,3)の推移(千t-CO2/年)
CO2排出原単位の推移(千tCO2/1次鋼材t)
CO2排出原単位の推移(千tCO2/1次鋼材t)
Scope3排出量2022年度実績
カテゴリー 対象 CO2排出量(t-CO2 2022年度
2013年度 2022年度
1 購入した製品・サービス 購入鉄源・コイル、合金鉄、副原料、
資材など(採掘、製造)
1,493,848 856,779 81.8%
2 資本財 設備投資 4,053 8,739 0.8%
3 燃料・エネルギー活動 購入燃料・電力(採掘、精製) 55,023 54,445 5.2%
4 輸送、配送(上流) 調達物流、出荷輸送 20,350 17,255 1.6%
5 事業から出る廃棄物 廃棄物(処理、輸送) 617 945 0.1%
6 出張 従業員の出張 94 104 0.0%
7 雇用者の通勤 従業員の通勤 224 244 0.0%
10 販売した製品の加工 客先での製品加工 51,173 60,332 5.8%
12 販売した製品の廃棄 客先での製品梱包材の廃棄物 54 56 0.0%
15 投資 株式投資先 92,340 48,219 4.6%
合計 1,717,776 1,047,118 100%

※カテゴリ8,9,11,13,14は該当なし

2022年度排出量

2050年カーボンニュートラルに向けてのロードマップ

当社では2050年カーボンニュートラルに向けての取組みを事業拡大のチャンスと捉え、CO2排出量が高炉製品の1/4である電気炉製品の生産比率を飛躍的に向上のうえ、Scope3の排出量を大幅に削減してまいります。また、省エネ設備、熱延直送圧延、太陽光発電などの導入を進め、2030年には2013年比46%以上のCO2排出量削減を目指します。
更に2050年カーボンニュートラルに向けては、更なる燃料・電力原単位の削減のための新設備技術、新燃料などの生産設備・船舶などへの適用、再エネ設備、廃熱回収発電設備の導入などを推進してまいります。

2050年カーボンニュートラルに向けてのロードマップ