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社長就任に関する所感
中山製鋼所の大転換期を支えるリーダーとして大きな使命と感謝の念を抱く
2025年6月26日付けで代表取締役社長に就任した内藤伸彦です。前社長が築いてきた経営理念と長期ビジョン達成の方針を継承していくとともに、自分らしさも発揮しながら、中山製鋼所グループの成長戦略の実践に邁進したいと思っています。
専務として3年間務めてきたこともあり、社長昇格の打診を受けた際にはある程度の覚悟はしていました。
しかし実際にその時を迎えると、新たに始動した新電気炉プロジェクトを成長戦略の柱として、自ら先頭に立って推進していく責任の大きさを、改めて深く実感しました。加えて、100年に一度とも言える大転換期においてリーダーを務めることは、望んで得られるものではなく、このような機会をいただけたこと自体に、心から感謝すべきだと考えるようになりました。当社グループは2013年の事業再生という非常に苦しい時期を経ており、辞めざるを得なかった従業員、厳しい雇用条件に耐えて残った従業員がたくさんいます。長い間、合理化、固定費削減と守りの経営を続け、皆が忍耐してきました。中山製鋼所グループ2030長期ビジョンの策定は、当社の経営が攻めに転じたことを意味しており、非常に前向きな転機となりました。従業員が一丸となって向かっていく大きな目標ができたことは、非常に喜ばしいことです。
私はこれまで主に営業と購買を担当し、社外の皆様との関係を大切な財産として築いてきました。当社を支えてくださったお客様、取引先の皆様とともに、これからも成長していきたいという思いを強く持っています。私たちには、どんな時も相手目線に立ってお付き合いしていく「中山らしさ」によって関係を築いており、中山を信頼していただいているお客様、取引先の皆様が全国にたくさんおられます。国内市場は人口減少、低成長という難しい時代に差し掛かり、いずれの企業も単独で成長を遂げることは容易ではありません。当社も中部鋼鈑株式会社との業務提携や日本製鉄株式会社との新電気炉合弁会社の設立を発表していますが、お客様をはじめ取引先各社の皆様との信頼関係を最大限に活かし、ともに将来ビジョンを達成したいと思っています。
2024年度の振り返り
厳しい市場環境が継続する中でも、グループ総合力を活かして収益確保、維持に努める
2024年度の当社グループの業績を総括すると、経常利益は81億円(前期は122億円)となり、40億円ほど減益という結果でした。要因は非常に明確で、当社の主要顧客の建築土木業界は、人件費の高騰や時間外労働規制の影響で工事が遅れ、特に下期の受注が落ち込みました。通常1年の工期が1年半になると、当社への発注にも先送りが生じます。加えて、中国が廉価な鋼材を年間1億トンほど輸出しており、日本の市場もかなり影響を受けました。これらの事業環境はいずれも構造的な課題であり、今後しばらくは継続すると見ています。当社としては電気炉が完成するまでの5年間が、次の飛躍に向けて最も大事な期間であるため、スラブやスクラップなどの在庫の適正化、固定費削減を徹底していくとともに、高付加価値製品の販売を強化し、グループ総合力でお客様の要望に沿った製品とサービスを提供し、収益確保の努力を行っていきます。そして、私たちの強みは価格競争力だけではなく、品質・デリバリーなど非価格競争力にあると私は考えています。鉄鋼業の市場価格は需要環境に左右されますが、当社グループはお客様と良い時も悪い時も互いを支え合いながらやってきました。全国に築いてきたお客様基盤を私たちは中山ファンと呼んでおり、このような信頼関係のネットワークが当社の競争力の源泉となっています。
長期計画 第1フェーズ(2025~2027年度)
新電気炉が稼働する2030年を見据えた収益基盤の基礎固めを推進
当社は2030年長期ビジョンをベースに新たに「中山製鋼所グループ2033長期計画」を策定しました。「新電気炉プロジェクトを基軸とする新たな成長ステージへ」をスローガンに、2033年度までの目標を明らかにしました。
第1フェーズの2025年度から2027年度では、新電気炉の完成を見据えた収益基盤の基礎固めに取り組みます。当社グループの主たるお客様は建築土木関係で、お客様の近くで製造する地産地消の品種も多く、地域密着型営業によって事業基盤を築いています。全国10工場と販売、物流などの拠点は48保有しており、全国津々浦々のお客様の現場に製品をお届けする販売流通体制が整っています。当社が材料から製品にし、二次加工では建材製造本部がC形鋼とパイプを、三泉シヤーが縞鋼板を切断するなど、さらに加工を施し、中山通商、三星商事が販売しています。海送、陸送の商品の配送は三星海運が行い、素材から最終商品まで一気通貫のバリューチェーンが当社グループの大きな強みです。このような体制があるので、お客様の様々な要望に合わせた製品をつくることができ、お客様本位の営業活動が行える、つまり、「中山らしさ」が発揮されます。これこそが当社の市場における存在感を支えています。第1フェーズでは、これらの事業基盤に対し、既設電気炉の安定操業を継続しながら販売強化を図っていくことが主な事業戦略です。
製品ポートフォリオから見た製品戦略では、高級鋼や加工度の高い、付加価値製品を順次、拡大していきます。具体的には棒線の新製品、高耐食性メッキ製品の開発、加工品では軽量C形鋼・パイプの特殊色や足場管などを開発しています。電気炉材の適用拡大については、新電気炉ができ上がってからのスタートでは間に合いませんので、従来は電気炉では難しく、品質が満足しないとされてきた高級鋼材や高機能フラット製品を電気炉材で実現する開発を行っていきます。当社の建築土木、産業機械のお客様向けだけでなく、家電や家具・内装品、ガス容器や自動車など新規分野での製品開発に多数取り組んでおり、一部の製品はすでに商品化し発売しています。
長期計画に向けた体制づくり
社会が待ち望むカーボンニュートラル鋼材のトップメーカーを目指した事業体制を構築

2030年以降に向けた製品ポートフォリオの改革を実現するために、研究開発への投資、体制強化に取り組んでいます。高炉材でつくっていた製品を電気炉材に切り替えることで、従来の約4分の1のCO2排出でつくることができ、カーボンニュートラル社会に貢献できるグリーン鋼材として各方面から注目を集めています。当社は官民共創の取り組みであるGXリーグにも参画しており、電気炉材適用拡大の研究開発は、大学など学術機関と共同で進めています。当社は国内に3社しかない電気炉鋼板メーカーの一つで、高炉・転炉の経験も持っているので、電気炉材適用拡大の技術力が高く評価されており、生産技術の開発をけん引していく役目を期待されています。当社では現在、フォーミング製品は温室効果ガスの排出を大幅に抑えた低CO2電気炉鋼材として販売していますが、新電気炉が計画通り稼働すると、当社の製品はグリーン鋼材として拡販できるようになります。自社のカーボンニュートラルを目指すお客様から、電気炉材切り替えに関する問い合わせも継続的に増えていますので、社会が待ち望む製品だと認識しています。また、当社の電力調達に関しても再生可能エネルギーへの切り替え、カーボンクレジットなどを活用し、2050年カーボンニュートラル達成を目標に掲げて活動しています。当社のこれらの取り組みが社外から評価され、CDPスコアでは、気候変動テーマに関するAランクを獲得できました。株主、投資家の皆様の目線からしても、カーボンニュートラルに貢献する企業として投資対象に加えていただけるものと期待しています。さらに、サステナブルな企業として様々なステークホルダーから注目を集めることは、採用活動にも好影響をもたらし、ひいては企業価値の向上にもつながると考えています。
製品面の強化拡大だけでなく、当社グループのバリューチェーンもスケールアップしていかなければなりません。大阪が創業の地である当社は現在、西の商圏を中心にした事業展開となっていますが、かつては関東圏にも今より多数のお客様に販売していました。しかしながら、事業縮小をした際に遠隔地への販売が減少することになったので、今回、それを復活させようと新たに中継拠点を開設します。場所は茨城港常陸那珂港区で、高速道路ネットワークが充実していること、京浜港に代替して活用できることなどから選定しました。私は東京支店に5年半赴任していたので、営業活動に力を入れていきたいと考えています。また、新電気炉が操業すると5幅のスラブ製造が可能になるので、関東、東日本エリアで広く新規のお客様を開拓していきたいと思います。
鉄スクラップ調達も2030年に備えて、順次調達ルートの開拓に取り組んでいます。私は購買部門の管掌も長く、鉄スクラップの購入を担ってきました。現在は月約5万トン調達しており、5年後には倍増する必要がありますが、現在の関西圏だけでは十分に集まりません。幸い当社には3万トン級の船が入れる岸壁があり、三星海運が海上輸送を行えることから、日本各地からの仕入れを増やしていく計画で、清水工場ヤードの拡張、名古屋工場に新規のスクラップヤードを設ける準備を進めています。調達量が増えるため業務効率も向上させる必要がありますが、スクラップの納入予約システムは導入済みで、今後はAI検収など、新システムの導入を検討しています。
非財務面の体制強化
人材戦略、DX、コーポレート・ガバナンスなど、事業の成長に合わせて経営のレベルアップを図る

新電気炉操業に向けた体制づくりの中で一番の課題が人材です。鉄鋼業界に限らず、近年はどこも人材不足が深刻ですから人材獲得は困難です。最新の電気炉立ち上げには技術の習熟も不可欠なので、まず、既存設備の操業をDXで省人化し、安定操業を守りながら新設備の技術習得を行うというのが基本的な方針です。新設備は少ない人員で高い生産性を実現し、コスト面、収益面からも、これまでの2倍の生産効率向上を図っていきたいと考えています。このような現場の人材配置を実現していくため、組織全体の見直しを行っています。グループの全ての部門でDXによる業務改善を行って生産性を向上させ、人材の再配置をする考えです。さらに、社内外教育・研修を充実させ、これまで以上に育成に重点を置きます。そして、効率はもちろん大事ですが、当社には家族的な雰囲気、チーム意識が根付いていることから、人を大事に育てる当社らしい人材育成にもこだわっていきます。
また、人材獲得も積極化しており、テレビCMで知名度向上を図るとともに、社員や知人からの紹介で雇用するリファラル制度、退職した社員を再度雇用するアルムナイ制度を導入しました。すでに数名の採用が実現しており、かつての従業員が戻ってきてくれたり、かつての従業員から紹介されたという人も来てくれました。当社では事業再生時代にやむなく退職された方が多数いるので、戻ってきてくれることは非常に嬉しく、ものづくりの技術伝承という点でも経験者の復帰はとてもありがたく思います。定年年齢も65歳まで延長し、働ける方にはできるだけ長く在籍していただきたいです。今後も当社のファミリーである人材は大事にしていきたいと思います。
ガバナンスの面でもレベルアップしていこうと、2025年6月の新体制から、従来の雇用型執行役員制度に代えて、委任型執行役員制度を導入しました。これは経営監督機能と業務執行機能の分離を行い、経営責任を明確化すること、加えて、業務執行の効率化と意思決定の迅速化を図ることが目的です。会社の大きな成長を目指すにあたり、コーポレート・ガバナンスも相応に強化していきたいという考えです。
IR活動とステークホルダーとの対話の機会も増やし、より積極的に行っていきます。投資家の方々からの様々な提案もお聞きし、長期計画では企業価値向上に主眼を置いた財務戦略を策定しました。新電気炉プロジェクトでは大型投資を予定しており、今後は建設費の上昇も見込まれます。そのため、営業活動を通じて可能な限り収益を確保し、有利子負債の増加を抑制することで、財務の健全性を堅持していく考えです。そして、大型投資がほぼ完了する2030年度までは成長投資が中心となりますが、株主の皆様への還元は、配当性向30%以上を目安として安定的に配当を行っていく方針としています。その後、計画通りに電気炉を稼働させ、当社の収益力強化が図られた際には、さらに株主還元の強化を検討していきます。いずれにせよ、鉄鋼メーカーは目先のことだけではなく、10年、それ以上を見越して投資を計画的に行っていくので、株主様への還元は安定的に行っていきます。
私が感銘を受けた言葉の一つに原口忠次郎元神戸市長の「人生すべからく夢なくしてはかないません」があります。1957年に明石海峡大橋の建設構想を初めて語った際、ほとんどの人があの潮流の激しい海峡に橋を架けるとは大変困難な計画で莫大な費用が無駄になると反対したのですが、原口市長は信念を持って議会を説得したそうです。明石海峡大橋は実際に技術的にも難しく、震災の影響などもあって1998年にやっと完成しましたが、夢というものがなければいかなる困難も乗り越えることはできなかっただろうと思います。当社の長期計画に通じるものを感じて、大変印象に残りました。
2019年に創業100周年を迎えた際、「次の100年も存続できる会社」となろうと皆で誓い合いましたが、当社グループはまさに今、大きな夢を持って事業に取り組む決意をしました。社員のモチベーションはこれまでより一段と上がっていますから、私も社員たちのやる気に報いるようなリーダーシップを発揮していきたいと思います。そして、当社グループの未来に期待される全てのステークホルダーの皆様に応えるため、足元の課題にしっかりと取り組みながら、中期、長期の目標達成を、一歩一歩実現していきたいと思っています。