トップコミットメント
- TOP
- トップコミットメント

代表取締役社長
2023年度の振り返り
突然の設備トラブルをグループの総力で乗り切ることができた年
中山製鋼所グループの主力製品である鋼材は、建設市場の大型物件が好調となる一方で、中小物件は鋼材価格、資材価格の高騰や人手不足も継続し、全体に低調でした。製造業は、半導体不足などのサプライチェーンの混乱の影響が解消され、自動車関連を中心におおむね回復してきました。また、中国が建築バブル崩壊により経済全体が失速し、日本からの建設機械、産業機械などの輸出も落ち込み、非常に低調になりましたが、事業環境全体としてはまずまずの環境でした。
一方、内部要因として、2023年4月に大きな設備トラブルが発生しました。当社グループで製造する鋼の約45%を製造している電気炉がベアリング故障によりストップ寸前になり、約半年間大幅な減産を余儀なくされました。当社グループは鉄源の半分以上を外部調達に依存しており、商社機能、物流機能を持っているので、減産分の鉄源の調達や納期調整等の対策を数々打ち、お客様への影響を最小限にとどめることができました。しかしながら、トラブル対応によるコストアップは避けられず、減産による収益悪化は15億円から16億円の規模のため、トラブルを除いた利益は2023年度としては2022年度と同等の水準であったと見ています。
今回の設備トラブルの影響をこのような水準にとどめることができたことは、コアバリューである“中山らしさ”が表れた証であると評価しています。経験したことのない規模のトラブルであったにもかかわらず、お客様からの受注に対し、どう対処すべきかを生産現場はもとよりグループ各社が考え、アイデアを出し合って連携することで窮地を乗り切りました。調達から鋼材生産、鋼材加工、販売、物流までのバリューチェーンの各社が、お客様からの信頼を必ず守るという強い意識を持っている当社グループだからこそできたと私は思っています。
また、その過程において、自社電気炉で鉄源を安定的に製造する重要性を改めて実感しました。鉄源のサプライヤーは、高炉メーカー、電気炉メーカーを含めて複数ありますが、まとまった量を急いで調達することは、コスト、納期の両面で困難です。今回、自家鉄源を約10%減産するだけで大きな損失が生じることになり、自家鉄源が収益面でいかにメリットをもたらしているかを目の当たりにしました。加えて、当社グループが取り組む電気炉工場新設・生産能力増強プロジェクトの重要性を再認識しましたが、これは私だけでなく、グループの皆が同様に感じたのではないかと思います。
なお、2024年度の事業環境については、鋼材販売数量は一定水準の増加を見込んでいるものの、主原料価格上昇に伴う鋼材スプレッドの縮小や固定費増加などを予想しています。また、建築鋼材、建材製品においても中国メーカーがアジア圏への積極的な輸出を展開し、価格競争が生じていることもあり、足元では市況が非常に不透明となっています。しかしながら、当社グループは2年連続の経常利益100億円超を達成しており、2024年度も高付加価値分野の販売強化、拡大を図るなど、100億円の水準は維持し、中期経営計画の目標を必ず達成したいと考えています。
中山製鋼所グループ2030長期ビジョン(ありたい姿)
電気炉工場新設プロジェクトで、カーボンニュートラルと収益力向上を実現
私は1980年に当社に入社しました。当時の鋼材年間生産量は、120万トンから130万トンの規模でしたが、その後、高炉の設備増強を図り、1990年代初めには250万トン規模に達しました。その後、バブル崩壊と一連の不況によって当社の収益性は悪化していき、2002年に高炉、転炉の休止が実行されました。それまでは主に、高炉・転炉プロセスで中厚板・薄板・表面処理コイル・棒線製品等の鋼材、いわゆる高炉品種を生産していましたが、休止後は、高炉鋼は他社からの供給に依存しつつ、電気炉プロセスを主体とする生産体制に移行してきました。しかし、このような苦難の歴史の中で、当社には、高転炉鋼と電気炉鋼両方の製造技術力、品質管理能力が養われており、両製法の特長を活かし、電気炉鋼で中高級鋼製品の製造を目指しました。高炉を止める少し前の2000年に熱延工場を新設し、4つあった圧延工場の生産機能を集約しました。そこにいろいろな熱延設備技術要素を詰め込み、微細粒熱延鋼板など付加価値の高い製品をいくつかつくれるようになりましたが、リーマン・ショックによる世界的大不況が起こり、十分な収益を上げることができない時代に突入します。

2013年に当社は事業再生支援を受け、2016年までの3年間は大幅な合理化と固定費削減、つまり省人と設備廃棄を行っていきました。入社当時約2,500名いた社員が477名まで減りました。生産についても合理化しましたが、鉄源を購入することで鋼材年間生産量は100万トンから130万トンの規模を維持しており、その後の約10年で少しずつ利益を出せる体質に変革していきました。しかし、競合他社に比べてもまだ収益力は低く、この課題を解決するため、自家鉄源の生産能力を増強する考えは検討俎上に載っていました。
2020年に政府はカーボンニュートラル宣言を行い、2030年に温室効果ガスを2013年度比46%削減2050年にはカーボンニュートラルという具体的な目標が示されました。この政府方針は当社グループにとって大きな転機となりました。電気炉による鋼材生産は、高炉の約4分の1のCO2排出量で済み、私たち電気炉メーカーはカーボンニュートラルの実現において大きなアドバンテージを持っているのです。例えば、高炉専業メーカーが電気炉に切り替えて生産を続けていこうとした場合、高炉・転炉を休廃止し、新たに同等の生産能力を持つ電気炉を導入するため、非常に大きな設備投資が必要になります。さらに、電気炉の技術を持たないメーカーが、これまで高炉でつくっていた製品と同等の品質を電気炉で実現できるかは非常に大きな課題となります。当社グループは、現在は電気炉専業であるものの、高炉・転炉の技術も蓄積しているため、高炉・転炉材の品質を知った上で高品質の電気炉材を生産できる限られた鋼材メーカーの一つです。私は、またとない事業拡大のチャンスが到来していると感じました。当社の収益性を圧迫している要因は、自社の電気炉のキャパシティを超える鉄源をコストの高い外部調達に頼っていることにあるので、この好機に、高炉跡地に新たな電気炉工場を建設して生産能力を大幅に増強し、外部調達から自家鉄源に置き換えることで、CO2を大幅に削減できるだけでなく、収益性が大幅に改善できると考えました。
当社グループは、2030年のありたい姿・目指す企業像として「中山製鋼所グループ2030長期ビジョン」を定めました。その中心が新電気炉工場によって生産能力を増強して外部鉄源を置き換えるプロジェクトであり、当社グループの強みとアドバンテージを最大限に活かし、カーボンニュートラルとグループ収益の最大化の両方を目指すものです。すでに高炉跡地の更地化が完了しており、現在、隣接する熱延工場に熱片スラブの直送圧延を行うなど省エネや各種原単位低減といったコスト削減効果が最大限引き出せる設備仕様の検討に入りました。2025年度からスタートする新中期経営計画で概要を明らかにできるよう、着々と準備を進めています。
中期経営計画(2022年度~2024年度)の進捗
“中山らしさ”の追求によるグループ一体での付加価値向上を加速
「中山製鋼所グループ2030長期ビジョン」の実現に向けた最初のステージとして、2024年度を最終年度とする中期経営計画に取り組んでいます。重点方針の一番目に「“中山らしさ”の追求、グループ一体での付加価値向上による連結収益最大化」を掲げています。“中山らしさ”を私の言葉で説明しますと、お客様と強い信頼関係を築いて、それをベースに長期に継続的なお付き合いをしていくことであると思います。私たちは、お客様の事業の状況あるいはご希望に合わせて売り方や納め方を変え、丁寧に対応していく活動を長年継続してきました。良いときも悪いときもお客様に寄り添って、信頼関係を築くことを第一に取引をしてきたので、切れることのない絆で結ばれているお客様が全国に多くいます。このような顧客基盤をつくってきた過程に“中山らしさ”が最もよく表れていると私は思います。
そして、私たちがお客様本位のお付き合いを実現できるのはグループの総合力があってのことです。現中期経営計画初年度の2022年に建材事業を行っていた中山三星建材を合併し、中山通商、三星商事の商社2社、物流会社の三星海運、縞板加工メーカーの三泉シヤーと不動産管理等を行う中山興産の計5社をグループ連結とする体制になりました。鉄をつくるところからお客様に製品を届けるまでの全ての機能をグループ内に備え、短納期、品質のレベルアップ、あるいはコストダウンなど、どんな要望に対しても、当社グループの総力を挙げて、お客様と当社グループとがwin-winとなる解を見つけ出して提案し、供給することができます。加えて、全国に広がる30カ所あまりの拠点のグループネットワークは商社機能も備え、鋼材や建材製品だけでなく、全国どの地域でも必要なものを必要なときに提供する地域密着型体制を整え、お客様が困ったときに頼れる存在になっています。さらに、三星商事は自社ECサイトを活用した、自社トラックでの迅速な現地配送機能も有しています。
また、連結収益最大化を図るための大きな戦略が、グループ一体での加工分野の強化です。鉄製品のサプライチェーンは、樹脂やその他の素材の製品に比べ、材料を「つくる」ところから最終製品を「使う」ところまでが非常に長いという特徴があります。例えば、鋼板製品の場合、鋼材から鋼板をつくる、板を切る、切ったものを組み合わせて形にするなどの各工程があり、穴をあける、曲げる、削る、溶接する、組み立てるなどそれぞれに加工技術があります。鋼板製品のほかにもパイプやC形鋼等の製品もありますから、非常にたくさんの加工工程を経て最終製品が出来上がるのです。お客様の建築現場にそのまま持っていき、自信を持って提供できるためには、グループの一員である加工メーカーが中山の意を形にする機能を持つことが最適な答えです。そうすることで製品の付加価値も上がり、無駄な在庫も抱えずに済むようになります。中期経営計画ではこのような体制づくりに力を注いでいます。今後、人口減少社会に突入し、市場の大きな伸長が期待できない日本で私たちが生き残ることは、鋼材だけをつくっていては不可能です。当社グループは「つくれる」ことを強みに、お客様、加工会社など関わっている皆様の全てが喜ぶバリューチェーンをつくり出しつつあります。一貫したバリューチェーンでつくることで高付加価値が生まれる製品分野、あるいは性能機能の尖った製品などラインアップの強化を図る分野、流通の一部の業務を自社に取り込むことで付加価値が高まる分野など広い観点で考えています。
サステナビリティ経営
5つのマテリアリティ特定とサステナビリティ委員会の設置

当社グループは、「中山製鋼所グループ2030長期ビジョン」の策定とともに、ESGにおける5つのマテリアリティを特定しました。「公正な競争を通じて付加価値を創出し経済社会の発展を担うとともに、社会にとって有用な存在であり続けます」という経営理念はSDGsの考え方と共通しています。5つのマテリアリティは、環境、お客様、従業員、地域社会、株主・投資家の皆様を含めたステークホルダーの皆様に対して、当社グループがありたい姿、目指す企業像を重要課題として据え、取り組んでいくことの宣言です。当社グループは、SDGsを重要な取組課題と認識しており、急激な世界経済の変動や地球規模の気候変動に柔軟かつ適切に対応するために、事業環境の変化を敏感に捉え、「電気炉メーカーである強み・優位性を活かした成長戦略の実現」を通じて、当社グループ従業員一人ひとりがエンゲージメントを高め、持続的な企業価値の向上のためのプロセスに貢献し、長期的かつ持続的に社会へ価値を提供できるビジネスモデルを構築していきます。
また、中期経営計画においてもサステナビリティへの取り組みの強化を進めています。その一環として2022年にサステナビリティ委員会を設置しました。2030年、2050年の目標を達成するには、現在計画中の電気炉生産能力増強だけでは十分ではありません。グリーン電力の活用やサステナブルな燃料の活用など、具体的な効果を算出した上で、グループで標準化を行っていかなければなりません。2022年3月に「GXリーグ基本構想」に賛同、10月には「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に賛同しましたが、今後はさらに、自社の取り組みを対外的に表していくため、サステナビリティ委員会が中心になって認証の取得や開示の充実等を進めていきます。
そして、グループ一体の経営をより深化させるために、ガバナンス体制の強化策として、当社は、2022年6月28日開催の定時株主総会の承認を経て、監査等委員会設置会社に移行しました。これにより経営の意思決定の迅速化を図り、取締役会における経営の基本方針等の議論をより充実させるとともに、取締役会による業務執行への監督を強化していきます。
現在、カーボンニュートラルという大きな目標に向かってビジネスモデルの変革を行っていますが、そうした活動を支えているのは人材です。鉄鋼業、製造業は全般的に人材不足が深刻化しており、当社グループも積極的な採用を行っていても十分な人員が確保できない状況が続いています。ですから、新卒採用、キャリア採用で入社した社員がやりがいを持って働ける環境をつくり、定着を図っていくことが非常に重要だと思っています。私は人材がやりがいを持てる環境とは、チームで信頼関係が持てる場があることだと思います。従業員には個人個人いろいろな考えがありますが、上司や仲間に存在価値を認められるからこそ、仕事をがんばれることは共通しています。また、当社は大阪から近い好立地に本社と主力工場がありますから、共働きの方も、介護や育児と両立したいという方も通勤がしやすい環境です。家庭の生活に応じて、いろいろな働き方が選べるように社内制度の改革を図っており、従業員のワークライフバランスの充実もますます向上させていきます。
ステークホルダーの皆様へ
次の100年も、いかなることがあっても未来に向かっていける会社に。
入社から45年、当社グループにはいろいろなことがありましたが、その中で、お客様を大事にする社風は決して変わることはなく、これこそ“中山らしさ”だと改めて感じます。私が入社した年、当社は、高炉・転炉・連続鋳造機・棒線工場を新設することで活躍し、自前の鉄源で業績が非常に好調だった時代でしたが、バブル崩壊後の激動の30年余りを経た上で、当社グループの鉄源をほぼ自前で賄うという計画を立て、カーボンニュートラルに挑戦し、地球と社会に貢献していく会社になろうとしていることは、非常に意味があることだと思っています。今後は、「カーボンオフセットの中山の鋼材を買う」とお客様に言っていただける会社でありたいです。その後の50年先は、日本の人口は大幅に減っているでしょうし、社会や流通も大きく変わっているでしょうから、鉄を「つくる」から「使う」までの構造をいかにお客様が使いやすい形に変えていけるのか、あるいは鋼材そのものに変革を起こすために挑戦しているのではないかと考えます。
当社グループは海の魚たちの餌場となる鋼製魚礁を50年ほど前から製造しており、「スリースターリーフ」は魚礁のトップブランドとなっていますが、この分野もブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)や食糧危機といった観点からさらに重要性が増していくでしょう。そして、このような社会全体のサステナビリティを考えたとき、当社グループはいつまでも「鉄」だけの一本足打法では存続ができないでしょうし、カーボンニュートラルを通じて学んだことを新たな分野に活かしてさらに変わっていかなければなりません。未来においては、中山製鋼所という社名が変わり、サステナビリティをつくり出す会社、そう呼ばれる会社になっているのではないかと想像しています。
いずれにしても、これからも地球、社会、鉄鋼業界には予想を超えるいろいろなことが起こるでしょう。私たちの力だけでそれらを乗り切れるかどうかわかりませんが、次の100年間も何があっても、ステークホルダーの皆様とともに未来に向かっていける会社でありたいと私は思っています。