価値創造ストーリー

財務・人材戦略 メッセージ

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取締役常務執行役員 大穂 勝也

グループの収益構造の改革を目指し、財務基盤強化を図るとともに、資本効率と株価を意識した経営に取り組んでいきます。

取締役常務執行役員
大穂 勝也

2024年度の業績と財務活動

市況が厳しい中、グループ一体で付加価値向上による収益向上に努める

 中山製鋼所グループの2024年度の売上高は1,693億円(前期比151億円減)、経常利益は81億円(同41億円減)と、減収減益になりました。主な要因は3点あり、1つ目は主力である建設向け鋼材の需要低迷です。建設業では人手不足や資材高騰などで建築案件に着工の遅れが多数生じたこと、さらに、中国産の廉価な鋼材の大量流入の影響です。2つ目は、契約数量の減少や電気炉改修工事の影響で、鋼片が在庫過剰となったこと、3つ目はコスト要因で、賃上げに伴う労務費の増加、2024年問題に伴う輸送単価の上昇などです。当社グループはスクラップ管理の強化、電気炉の稼働率向上、より収益性の高い製品へのシフトなどを行い、これらの課題に対応してきました。棒線製品については紐付契約品を中心に収益確保に努め、市況が厳しい中でも安定した販売ができたため、減益幅を抑える効果があったと思います。 2025年度も厳しい市況が続くので、引き続き、稼働率向上、高付加価値製品の販売強化などを行い収益確保に努めていきます。

 2024年度の戦略投資としては、三泉シヤーの第2工場建設や中山通商でM&Aを実施し、すでに足元から収益に寄与しています。そのほかの投資については、資材の高騰などにより2025年度以降に持ち越しました。中期経営計画(2022年度~2024年度)の設備投資額は、新電気炉への大きな投資が控えていることから優先順位を熟慮して行った結果、計画値190億円に対して実績は134億円となりました。

2023・2024年度実績と2025年度の業績・配当予想

(単位:億円)

2023年度 2024年度 前年度比 2025年度予想
売上高 1,844 1,693 △151 1,575
営業利益 123 84 △39 73
経常利益 122 81 △41 70
経常ROS 6.6% 4.8% △1.8pt 4.4%
当期純利益 89 57 △32 42
1株あたりの配当額 50円 40円 △10円 24円

財務戦略と資本配分

新電気炉建設の成長投資を軸に、中長期的な成長と企業価値向上を目指した資本配分を実施

 当社グループは2025年度から新電気炉立ち上げ予定の2029年度までの期間において、成長投資を中心に据えた財務戦略を実行していきます。

 当社グループの現在のビジネスモデルでは、外部調達の鉄源は自社鉄源よりもコストがかさむことに課題があります。例えば、今の市況のように鋼材販売価格が低下していく局面では、過去に調達した高い材料で製造するので、より収益性が悪化します。また、既設電気炉の老朽化により、設備の維持更新コストが増加しており、当社製品のコスト競争力を阻害しています。新電気炉建設は、収益面での課題解決、そして製品の温室効果ガス排出量の低減による競争力強化を実現することを目的としています。

 建設費は、建設コストの変動も踏まえながら約950億円と見積もっています。非常に大きな設備投資になりますので、完成後は減価償却費が増加し、経常利益は倍増とはいきませんが、キャッシュ・フローは大幅に改善します。2030年度の財務目標は、経常利益100億円以上(2024年度81億円)、減価償却費を差し引いた事業の収益力、キャッシュ創出力を表すEBITDA220億円以上(2024年度113億円)としています。さらに操業が安定する2033年度以降は、より高い収益が得られると考えています。そして、捻出された資金は次なる成長に向けた投資と、株主の皆様への還元強化に回していくことを検討したいと考えています。一方、建設期間中の投資は、既設電気炉の安定かつ安全な操業の維持を最優先とし、加工事業の強化などの成長投資と合わせて350億円程度を計画しています。

 資金については、当社の営業キャッシュ・フローと銀行借入、資産売却等に加え、日本製鉄株式会社との合弁会社設立のスキームで進めています。同社は合弁会社を通じて約245億円の出資を行い、当社は資金提供を受けて新電気炉の建設および操業を行い、新電気炉で生産したホットコイル等を同社へ供給します。同社は独自に電気炉建設を計画していますが、自動車用鋼板・電磁鋼板などの高級鋼材向けの設備とする予定であり、汎用鋼材向けは当社から提供することになります。同社とは過去から取引実績もあり信頼関係ができており、今回の合弁会社設立は双方にメリットがあるスキームとなります。

 また、当社は従来、財務健全性の目安としてネットD/Eレシオ0.1倍程度とし、資金管理を徹底しながら有利子負債の増加を抑えてきましたが、大規模投資の実行により、今後の負債は増加します。しかしながら、自己資本比率は50%以上を維持し、財務健全性を確保していく考えです。

ROE、株主資本コスト、自己資本
ROE、株主資本コスト、自己資本

企業価値向上策とともに、株式市場からの適正な評価獲得を目指す

 足元では株価も下落傾向にあり、PBRについては2025年3月末で0.38倍と1倍を大きく下回っており、これらの改善が大きな課題であると認識しています。利益水準の向上と適正な株主還元、そして、株主資本コストを上回るROE水準の維持によって企業価値向上を図る必要があり、合わせて、株式市場で適正な評価を受けるための情報開示の拡充が重要と考えています。長期計画の戦略に基づくESG活動の強化、さらには株主、投資家の皆様との対話の機会を増やすIR活動もより積極化しています。2025年4月にはIR広報室を設置し、四半期ごとの決算説明会を開始しました。さらに投資家との個別面談なども増やし、打ち出した戦略が当社グループを成長路線に乗せるための最善策であることをご理解いただけるよう努めていきます。

 製造業は、戦略的かつ計画的に投資を行っていくことが事業の成長には欠かせません。超高齢化社会、人口減少などの影響で日本の製造業全体が伸長しにくい時代ですが、カーボンニュートラルに貢献する電気炉鋼材市場には追い風が吹いており、しかも当社グループは電気炉で幅広い鋼材を提供できる確固たる技術を持っています。新電気炉プロジェクトを基軸とした新たな成長ステージの実現に向けて着実に準備を進めていきたいと思います。

人材に対する考え方

「中山らしさ」を支えるコミュニケーションとチームワークが意欲の高い社員を育成

 企業にとって人は財産であり、最も重要な資本であると考えています。短期的な目標達成を実現するだけでなく、会社が持続的に成長していくには人材の力が大きく関わってきます。私は金融分野から中山製鋼所に入社しましたが、まさにものづくりは人であると強く感じます。いかに良い設備を持っていても、その価値を活かすことができる人がいなければ事業は成り立ちません。当社にはモチベーションが高く、実直で責任感のある人が多く、社員こそが会社の原動力であることは間違いありません。

 このような人材が育ってきた背景には、当社がコミュニケーションとチームワークを重視した企業風土づくりを行ってきたことにあります。会長、社長ともに役員、管理職との意思疎通を大切にし、しっかりと議論を行いながら組織の目標や方向性を定め、共有しています。私たちはトップの考えをしっかりと理解していますし、それを管掌部門のメンバーと共有することにより、組織と社員のベクトルが同じ方向を向いているのだと思います。また、期末と中間期にはトップのメッセージを全国配信するなど、社員にも直接語りかけています。社員のモチベーションが高いのは、これらによってチームワークが良い組織になっているからだと思います。

 私が考える「中山らしさ」とはチームワークであり、グループ力です。当社グループには、本社工場を含めて全国に10の工場、34の営業拠点があり、海運、物流、商社機能を備えています。製造、加工、販売、出荷に関わるすべての社員が地域密着でお客様に丁寧に対応し、全国で信頼を獲得してきたことが当社グループの強みです。そして、この強みを支えているのがチームワークなのです。これはメンバーシップ型の安定・同質性重視ではなく、変化に即応できる柔軟性や多様性を活かしたエンゲージメントの高い常に挑戦する集合体ということです。

 人材育成においても「中山らしさ」が基点となっています。社員説明会、育成研修、社内報、工場パトロール、他社交流など独自の育成ツールを整備し、コミュニケーションを重視した丁寧な人材育成を継続的に行っています。人事戦略は経営戦略そのものであり、今後の人材育成、人材強化は経営戦略の実現を最大目的としたものにしていきたいと考えています。

人的資本経営の推進

長期計画の実現を目指した組織体制づくりと人材力の最大化を実施

 当社グループでは新電気炉プロジェクトが立ち上がり、長期計画第1フェーズでは、皆が一丸となって新電気炉工場建設の準備を進めているところです。2025年度はまず、組織・制度の最適化、業務改善、多様な人材の確保と育成に重点的に取り組みます。各部では、部門のドメインとビジョンを定め、それに基づいた人材配置、人材育成のプランを立案してもらいました。総務人事部が全部門の計画を取りまとめ、さらに取締役は全社的な視点を盛り込んで、組織体制の最適化計画と中長期的な人材キャリアマップの策定に入ります。グループ全社を対象に、最適な組織を目指した体制見直しも検討していきます。この人材配置と組織の刷新は、当社グループの重要課題の一つです。従来、部門長および上長の意見を反映した配置を行ってきましたが、全体最適の視点や個人のキャリアプランも重視する観点から、今後は、タレントマネジメントの考えも取り込み、総務人事部が社員一人ひとりの能力、スキル、経験と合わせて現状のモチベーションや潜在的適性などの人材データを可視化し、社員のキャリア開発と最適配置によるパフォーマンス向上につながる体制にしていく方針です。その中には女性活躍の視点も入れており、女性管理職、役員のロールモデルができるよう粘り強く取り組んでいきます。

 次にグループの能力開発専門部署の設置も検討します。今後の生産能力増強、電気炉材の適用拡大により当社グループが目標を達成するためには、技術力強化と蓄積したスキルの継承や会社との心理的なつながり、仕事への熱意・意欲、全員が一枚岩になることが不可欠です。しかしながら、現場の技術者は常に多忙なため、現場任せでは十分な育成ができないという課題があります。さらに、加工、営業のプロセスも規模拡大を図っていくので、独自の知見、ノウハウの継承と育成を強化していくべきであり、全職種の能力開発専門部署としていく構想です。

 また、新電気炉は容量が大きく、生産性も格段に上がることから、システム関連の刷新も必要になります。そのため、DX推進事務局を立ち上げ、システムの更新、導入などを早期に検討したいところですが、DXや先端テクノロジーに強い人材が不足しているので、人材育成も同時進行で行う必要があります。事務局の主要メンバーでDX推進ロードマップを策定し、2030年までに計画的に実行していくことを考えています。

 人権尊重については、2024年度に「中山製鋼所グループ人権方針」を制定しました。これに基づいて、サプライチェーンの人権リスクの抽出とリスクマップの作成に現在取り組んでおり、今後、人権デューデリジェンスのPDCAを通じて、事業に伴う人権リスクの低減を図り、社会的責任を果たしていきます。

 また、マテリアリティの一つに「従業員のモチベーションをアップさせ、家族の幸せを追求する企業」を掲げており、KPIを設けて「労災・重大事故の防止」と「健康経営の推進」に取り組んでいます。中でも、鉄鋼業である当社は、従業員の安全確保は最も重要であると認識しており、2024年度は「安全は全てに優先する」を基本理念に労災事故リスクの低減に取り組みました。併せて、健康有所見者の割合を下げるために、産業医面談の強化と健康経営の取り組みで、社員の健康への意識付けによる健康リスク低減を図りました。

人的資本経営
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